30%下がった株が43%上がらないと戻らない理由
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変化率は足し算ではなく掛け算です。30%下げて30%上げると91で止まる。同じ非対称性がナンピン・インフレ・税抜き計算にも通っています。
30%下げて30%上げても戻らない
100 から始めます。30% 引くと 70。そこに 30% 足すと 70 × 1.3 = 91。同じ数字を上下に一度ずつ使っただけなのに、出発点より 9% 減っています。
これは端数の話ではありません。半値になった株が倍にならないと戻らない理由、物価が 25% 上がってもお金の価値が 25% 減るわけではない理由、税込価格から消費税を抜くのが引き算ではなく割り算である理由——三つとも根っこは同じ一つの算数です。
足元の «基準» が動いている
パーセントは単独では量になりません。測ったときに立っていた台の大きさで割った値です。最初の 30% は 100 の 30% だから 30。次の 30% は 70 の 30% だから 21。この二文のあいだで元の 9 が消えていて、それが答えのすべてです。
だから変化率は足せません。掛けるのです。0.7 × 1.3 = 0.91。何回動いても効くのは積だけなので、順番も関係ありません。30% 下げてから 30% 上げても、30% 上げてから 30% 下げても、着地点は同じ 91 です。
d の割合だけ減った状態から元に戻すのに必要な上昇率は d ÷ (1 − d)。30% 減なら 0.3 ÷ 0.7 = 42.9% です。式は小さいのに、描く形は穏やかではありません。
20% くらいまでは直感のずれもたかが知れています。20% 減に必要なのは 25% で、差は 5 ポイント。ところが 50% を超えると別世界です。70% 減には 233%、90% 減には 900% が必要になります。程度の差ではなく、«戻る» という言葉の意味そのものが変わります。
お金が出ていく場面 — ナンピン買い
1 株 100 で 100 株持っているとします。取得額 10,000、平均取得単価 100。株価が 70 に下がったので含み損は 3,000、率にして 30% 減で、建値に戻るには 42.9% の上昇が要ります。
ここで 70 で買い増して平均単価を下げる、というのが定番の一手です。効くのは事実で、どれだけ効くかは買う前に見ておく価値があります。70 で買って平均単価を目標値まで下げるのに必要な株数は、株数 × (現在の平均 − 目標) ÷ (目標 − 70) です。
| 目標平均 | 70 で買う株数 | 追加資金 | 買った後 |
|---|---|---|---|
| 95 | 20 | 1,400 | 120 株 · 11,400 |
| 90 | 50 | 3,500 | 150 株 · 13,500 |
| 85 | 100 | 7,000 | 200 株 · 17,000 |
| 80 | 200 | 14,000 | 300 株 · 24,000 |
| 75 | 500 | 35,000 | 600 株 · 45,000 |
平均単価の最初の 5 ポイントは 1,400 で削れます。75 まで——まだ現在値より上です——下げるには 35,000、元のポジションの 3.5 倍が必要です。しかも 70 で買い続けても平均単価が 70 以下になることは永遠にありません。分母の 目標 − 70 がゼロに近づき、必要株数が発散します。
これも同じ非対称性の別の服装です。ナンピンは損を修理するのではなく、回復しなければならない玉を大きくします。それが良い取引かどうかは、その資産をいくらと見るかだけで決まる話で、計算機が代わりに決めてくれる部分ではありません。
インフレが削るのは見出しの数字より小さい
米国の消費者物価は 2020 年から 2025 年で 24.4% 上がりました。多くの人はこれを «貯金の四分の一が消えた» と読みます。違います。購買力の減少は 1 − 1 ÷ 1.244 = 19.6%。物価は昔の水準の 24.4% 分上がり、お金は昔の価値の 19.6% 分を失った。基準が二つあるので数字も二つ、どちらも正しいのです。
さかのぼるほど差は開きます。倍率は掛け算で積み上がるのに、元本に対する割合はそうならないからです。
| 期間 | 物価上昇 | 購買力の減少 | 年率 |
|---|---|---|---|
| 2020 → 2025 | 24.4% | 19.6% | 4.46% |
| 2015 → 2025 | 35.8% | 26.4% | 3.11% |
| 2000 → 2025 | 87.0% | 46.5% | 2.53% |
| 1995 → 2025 | 111.3% | 52.7% | 2.52% |
30 年で物価は倍を超え、111.3% 上がりました。同じ 30 年、タンス預金は買えるものの 52.7% を失っています。購買力は物価がどこまで上がっても 100% 以上は失えないのに、物価上昇のほうには上限がありません。二つの列は一つの数字の言い換えではなく、別の問いへの答えです。
持ち歩く価値があるのは右端の列です。総計 111.3% と聞くと激しく響き、年率 2.52% と聞くと何も起きていないように響く。それが同じ 30 年です。年率は幾何平均なので、これも足せません。30 年で 2.52% は 1.0252 の 30 乗であって、30 × 2.52% ではありません。
税込から本体を出すのは割り算
レシートに «税込 110 円(消費税 10%)» とあります。本体価格は 110 × 0.9 = 99 円ではありません。110 ÷ 1.1 = 100 円で、税は 10 円です。1 円のずれの原因はまた基準で、10% がかかったのは 100 のほうであって 110 ではないので、110 から引くことができないのです。
ルールは一般化します。税率を乗せるときは 1 + r を掛ける。抜くときは 1 + r で割る。1 − r を掛けるのは別の問いに答える別の操作で、両者が一致するのは r が 0 のときだけです。
10% なら本体価格を 1% 少なく見積もる程度ですが、20% の付加価値税だと 4% 少なく出ます。120 を正しく割れば 100、0.8 を掛けると 96。請求書を大量に切る立場なら、帳簿が合うか合わないかの差です。
持ち帰る規則はひとつ
パーセントは比であり、比は掛け算で合成されます。同じ量に二つ以上の変化率が乗るときは、それぞれを倍率に直す——30% 減は × 0.7、30% 増は × 1.3、税 10% は × 1.1——そして掛けて積を見る。それだけです。
この手順を踏むと、驚きは代金が発生する前に消えます。0.7 × 1.3 = 0.91 であること、税抜きは 1.1 で割ることであること、順番を変えても答えが変わらないこと。ここまでの話は全部、この一つの習慣を四つの請求書に当てただけです。