TDEE計算機はなぜ300kcalもずれるのか
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3つの標準式の差は約100kcal。それより活動係数の1段階が289kcalと大きい——ずれの正体と、体重の実測で自分の数字に補正する手順。
同じ人なのに、答えが3つ
30歳の男性、身長175cm、体重70kg、体脂肪率はおよそ20%。この一人を、世の中のTDEE計算機のほぼすべてが使っている3つの式に通すと、基礎代謝(BMR)の答えが3つ出ます。
Mifflin-St Jeor式では1,649kcal。10×70 + 6.25×175 − 5×30 + 5 という計算です。改訂版Harris-Benedict式では1,696kcal。除脂肪体重(体脂肪20%なら56kg)を使うKatch-McArdle式では、370 + 21.6×56 = 1,580kcalになります。どれも紙とペンで検算できる算数です。
差は116kcal。気にはなりますが、ご飯一杯分にも届きません。式の選び方が原因なら、計算機同士がここまで食い違うはずがない——本当のずれは別の場所にあります。
3つの式の出どころ
Harris-Benedict式は最も古く、1919年にカーネギー研究所で数百人を間接熱量測定して作られました。いまの計算機に入っているのは多くが1984年のRoza-Shizgal改訂版です。元データが1世紀前のものなので、現代人にはやや高めに出る傾向があります。
Mifflin-St Jeor式は1990年、American Journal of Clinical Nutrition誌に発表されました。Harris-Benedictのずれを直すために約500人の現代人で作り直した式で、栄養学の学会の多くが標準として推しています。2005年の系統的レビューでは、肥満でない成人のおよそ8割で実測の安静時代謝の±10%以内に収まりました。裏を返せば、2割の人では10%以上外れます。
Katch-McArdle式だけは入力が違い、除脂肪体重を使います。筋肉質な70kgと運動不足の70kgを区別できる唯一の式です。ただし体脂肪率を正確に知っていることが前提で、5ポイント違う推定値を入れれば、式が減らした誤差より大きい誤差を持ち込むことになります。
本当の犯人は活動係数
BMRはTDEE計算の前半にすぎません。後半では活動係数を掛けます。座り仕事中心なら1.2、軽い活動で1.375、中程度で1.55、活発なら1.725、非常に活発で1.9。さきほどの1,649kcalの男性なら、この5択で1,979・2,267・2,556・2,844・3,134kcalになります。
この軸の1段階は約289kcal。最初のグラフと見比べてください。式を替えても最大116kcalしか動かないのに、隣の活動ラベルを選ぶと289kcal動きます。計算機同士が数百kcal食い違うとき、揉めているのはあなたの代謝ではなく、「中程度の活動」という言葉の解釈です。
しかも人はこの選択を、決まった方向に間違えます。デスクワークに週3回のジムなら「中程度」に感じますが、係数はもともと一日中体を動かす生活を想定して作られたもので、その生活は1.55より1.375に近い。自分に甘いラベルを選んだ分だけ推定が膨らみ、あとで「代謝が遅い」と誤解される差になります。
この数字が約束できること、できないこと
完璧に選んだ式でも、それは集団の平均を一人に当てはめたものです。「8割の人で±10%以内」は「2割の人では10%以上外れる」と同じ意味で、2,500kcalの10%は250kcal——人によっては食事1回分です。安静時代謝そのものも、睡眠・体調・月経周期・気温で日々揺れますし、減量後の体は式の予測より少し少なく燃やします(代謝適応と呼ばれる現象です)。
女性の場合は式全体が下にずれ、Mifflin-St Jeorでは最後の+5が−161になります。同じ身長・体重・年齢なら1,483kcalです。ただし誤差の幅は同じ。計算機が無意味だという話ではなく、これは出発点だという話です。
いちばん信頼できるデータで補正する
あなたの体重計は、どんな式よりも優れた代謝測定器です。測っているのが「1990年の被験者の平均」ではなく、あなた自身だからです。手順は短い。計算機が出した維持カロリーどおりに、できるだけ正確に記録しながら2〜3週間食べる。毎日同じ条件で体重を測り、日々の値ではなく週平均どうしを比べる——1日単位の変動は水分でいくらでも動きます。
あとは傾きを読むだけです。体脂肪1kgはおよそ7,700kcalに相当するので、2週間で0.5kg減っていたなら、実際のTDEEより1日あたり約275kcal少なく食べていたことになります。その分だけ数字を上げる。増えていたら下げる。この1サイクルは「どの式が優れているか」というどんな議論にも勝ちます。終わったときには、集団の推定値があなた自身の実測値に置き換わっていて、式はもう関係なくなっているからです。
結局どれを選べばいい?
最初の当たりとしてはMifflin-St Jeorを、活動レベルは「自分に心地よいラベルの1段階下」を選ぶこと。Katch-McArdleに手を伸ばすのは、体脂肪率が鏡の前の推定より確かな根拠(DEXAスキャンや信頼できる推移データ)から来ているときだけです。Harris-Benedictは歴史的な基準線として扱えば十分。そこから先は推定の最適化をやめて、2週間の補正を始めてください。式とラベルが残した誤差は、そこで静かに吸収されます。
TDEE計算機は同じ入力のまま3つの式を切り替えられるので、最初のグラフの116kcalの幅を自分の体で確かめられます。減量・増量の目標カロリーも選んだ式から導きます。そもそも自分の体重が健康的な範囲かどうかを知りたいなら、それは別の問いで、道具も別です——BMI計算機が、標準の基準値が誤解を招きやすい場面も含めて扱っています。